自社株の評価が必要になる場面
非上場会社の株式(自社株)には市場価格がありません。そのため相続税・贈与税の計算では、財産評価基本通達という国税庁の通達(178〜189-7が取引相場のない株式の評価)に沿って評価額を計算します。この評価が必要になるのは、たとえば次のような場面です。
- 相続:オーナーが亡くなり、相続人が自社株を相続する
- 生前贈与:後継者に株式を少しずつ贈与する
- 自己株式の取得:会社が退任役員や少数株主から株を買い取る
- 持株会社化・株式移転:ホールディングス化のために株を移す
- 事業承継税制の適用:納税猶予の対象となる株式の価額を算定する
いずれも「自社株がいくらか」で税負担が直接決まります。しかも業績が良い会社ほど評価額は上がり、対策の余地は年々狭くなるため、早い段階で自社の評価水準を把握しておく価値があります。
なお、ここで計算する評価額は課税のための価額であり、M&Aで会社を売るときの価格とは別物です。この違いは自社株の相続税評価額とM&Aの株価算定はなぜ違う?で詳しく解説しています。
まず「誰が持つ株か」で2つのルートに分かれる
評価方式の話に入る前に、必ず先に決まるのが株主の立場です。同じ会社の同じ1株でも、取得する人によって評価額はまったく違います。
| 株主の立場 | 適用される評価 | 考え方 |
|---|---|---|
| 同族株主等(オーナー一族) | 原則的評価方式(類似業種比準価額・純資産価額・その併用) | 会社を支配する立場。会社の財産・収益力そのものを評価する |
| 同族株主以外の少数株主 | 配当還元方式 | 配当を受け取るだけの立場。受け取る配当から逆算する |
判定は、株主グループの議決権割合で行います(財産評価基本通達188)。おおまかには次のとおりです。
- 同族株主のいる会社(議決権30%以上のグループがある。ただし50%超のグループがあればそちらが基準)では、そのグループに属する株主は原則的評価。属さない株主は配当還元
- ただし同族グループの中でも、中心的な同族株主(本人・配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族などで議決権25%以上)がいる会社で、取得者本人が中心的な同族株主でなく、取得後の議決権が5%未満で、役員でもない場合は配当還元
- 同族株主のいない会社では、議決権15%未満のグループに属する株主は配当還元
実務では、この株主区分の判定が結論を大きく動かします。株主名簿と議決権の整理が、自社株評価の実質的なスタート地点だと考えてください。
原則的評価は「会社規模」で方式が決まる
同族オーナー側(原則的評価方式)になった場合、次に決まるのが会社規模区分です。会社規模は大会社・中会社(大・中・小)・小会社の5区分で、区分ごとに使う方式が変わります(財産評価基本通達178・179)。
会社規模ごとの評価方式は次のとおりです。表中のL割合は、併用方式で類似業種比準価額に掛けるウエイトを指します。
| 会社規模 | 評価方式 | L割合 |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準価額(納税者の選択で純資産価額も可) | — |
| 中会社(大) | 類似業種比準価額 × 0.90 + 純資産価額 × 0.10 | 0.90 |
| 中会社(中) | 類似業種比準価額 × 0.75 + 純資産価額 × 0.25 | 0.75 |
| 中会社(小) | 類似業種比準価額 × 0.60 + 純資産価額 × 0.40 | 0.60 |
| 小会社 | 純資産価額(選択でL=0.50の併用方式も可) | (0.50) |
一般に、類似業種比準価額のほうが純資産価額より低くなることが多いため、大会社に近い区分ほど評価額が下がりやすい、という関係になります。
会社規模の判定基準
判定は「従業員数」「総資産価額(帳簿価額)」「取引金額(売上高)」の3つで行い、業種は卸売業/小売・サービス業/それ以外の3区分です。
まず、従業員70人以上なら業種を問わず大会社で確定します。70人未満の場合は、①総資産価額(従業員数を併用)による区分と、②取引金額による区分を出し、上位(大きいほう)の区分を採用します。
大会社となる基準(従業員70人未満の場合)
| 業種 | 総資産価額 | 取引金額 |
|---|---|---|
| 卸売業 | 20億円以上(従業員35人以下を除く) | 30億円以上 |
| 小売・サービス業 | 15億円以上(従業員35人以下を除く) | 20億円以上 |
| それ以外 | 15億円以上(従業員35人以下を除く) | 15億円以上 |
小会社となる基準(次のいずれにも該当する場合)
| 業種 | 総資産価額 | 取引金額 |
|---|---|---|
| 卸売業 | 7,000万円未満 または 従業員5人以下 | 2億円未満 |
| 小売・サービス業 | 4,000万円未満 または 従業員5人以下 | 6,000万円未満 |
| それ以外 | 5,000万円未満 または 従業員5人以下 | 8,000万円未満 |
この上下に挟まれた範囲が中会社で、金額水準に応じてL=0.90/0.75/0.60に分かれます。
判定上の細かい注意点も押さえておきましょう。
- 総資産価額は帳簿価額(直前期末)です。相続税評価額ではありません
- 従業員数は継続勤務従業員(週30時間以上)に、それ以外の従業員の年間労働時間合計÷1,800時間を加えて算出します。社長・理事長等の役員は含みません
- 取引金額は直前期末以前1年間の事業収入です
- 業種は、取引金額のうち最も多い業種で判定します
3つの評価方式の中身
① 類似業種比準価額 — 上場企業の株価に比準させる
同じ業種の上場企業の株価をもとに、配当・利益・純資産の3要素を自社と比べて評価する方式です。
類似業種比準価額(50円ベース)
= A ×〔(Ⓑ/B + Ⓒ/C + Ⓓ/D) ÷ 3〕× 斟酌率
1株当たり評価額 = 上記 ×(1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)
- A:類似業種の株価。課税時期の属する月以前3か月の各月の株価のうち最も低いもの(前年平均株価、課税時期の属する月以前2年間の平均も選択可)
- Ⓑ・Ⓒ・Ⓓ:自社の1株当たり配当金額・利益金額・簿価純資産価額(すべて50円換算)
- B・C・D:類似業種(上場企業平均)の同じ3要素
- 斟酌率:上場企業との規模の違いを織り込んで評価額を割り引く係数。大会社0.7/中会社0.6/小会社0.5
B・C・Dの数値は国税庁が「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」として公表しており、この公表値を使います。
実務上のポイントは**Ⓒ(利益)の影響が大きい**ことです。Ⓒは直前期末以前1年間の法人税の課税所得をベースに、固定資産売却益・保険差益などの非経常的な利益を除いて計算し、マイナスの場合はゼロとして扱います。したがって、利益が大きく出た期の直後は評価額が跳ね上がり、逆に赤字期には下がる、という動きをします。
② 純資産価額 — 会社を解散したらいくら残るか
会社の資産・負債を相続税評価額に洗い替えて計算する方式です。
1株当たり純資産価額
=(相続税評価額による総資産 − 負債 − 評価差額に対する法人税額等相当額)
÷ 課税時期の発行済株式数
評価差額に対する法人税額等相当額
=(相続税評価ベースの純資産 − 帳簿価額ベースの純資産)× 38%
ここで重要なのが含み益への課税相当額の控除です。土地や有価証券に含み益がある場合、その含み益(評価差額)に38%を乗じた金額を控除できます。
この38%は令和8年3月25日付の通達改正で37%から引き上げられた率です(財産評価基本通達186-2)。改正前の課税時期については37%が適用されるため、古い解説記事の37%のまま概算すると結果がずれます。
そのほか実務で効いてくる論点:
- 課税時期前3年以内に取得した土地等・家屋等は、相続税評価額ではなく通常の取引価額で評価します(=路線価評価による圧縮が効きません)
- 引当金・準備金は負債に含めません。一方、未払法人税等・未払固定資産税・被相続人の死亡による退職手当金は負債に含めます
- 株式の取得者とその同族関係者の議決権が議決権総数の50%以下の場合は、計算した純資産価額に80%を乗じる取扱いがあります(財産評価基本通達185ただし書)
③ 配当還元方式 — 少数株主のための特例
支配権のない少数株主については、受け取る配当から逆算する簡便な方式が使われます。
配当還元価額 =(年配当金額 ÷ 10%)×(1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)
年配当金額は50円換算の1株当たり配当金額(直前期末以前2年間の平均。特別配当・記念配当などの非継続分は除く)で、2円50銭未満または無配の場合は2円50銭として計算します。
なお、計算結果が原則的評価方式による価額を上回る場合は、原則的評価額のほうを採用します(財産評価基本通達188-2ただし書)。
通し数値例 — 同じ会社でも規模区分で1.8倍の差
前提を置いて、実際に数字を並べてみます。
前提
- 発行済株式数:10,000株(自己株式なし)/資本金等の額:5,000千円(1株当たり500円)
- 帳簿価額ベースの純資産:150,000千円
- 相続税評価額に洗い替えた純資産:250,000千円(土地の含み益100,000千円)
- 類似業種比準価額:1株 8,000円(国税庁公表値を用いて算定したと仮定)
- 年配当総額:500千円
純資産価額の計算
| 項目 | 金額(千円) |
|---|---|
| 相続税評価ベースの純資産 | 250,000 |
| − 評価差額に対する法人税額等相当額(100,000 × 38%) | △38,000 |
| = 純資産価額(総額) | 212,000 |
| 1株当たり純資産価額(÷10,000株) | 21,200円 |
会社規模区分別の原則的評価額
| 会社規模 | 算式 | 1株評価額 | 10,000株の総額 |
|---|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準価額 8,000 | 8,000円 | 8,000万円 |
| 中会社(大) | 8,000×0.90 + 21,200×0.10 | 9,320円 | 9,320万円 |
| 中会社(中) | 8,000×0.75 + 21,200×0.25 | 11,300円 | 1億1,300万円 |
| 中会社(小) | 8,000×0.60 + 21,200×0.40 | 13,280円 | 1億3,280万円 |
| 小会社(L=0.50併用を選択) | 8,000×0.50 + 21,200×0.50 | 14,600円 | 1億4,600万円 |
まったく同じ財務内容の会社でも、会社規模区分が変わるだけで評価額は8,000万円から1億4,600万円まで、約1.8倍の幅で動きます。(小会社は純資産価額21,200円と併用方式14,600円の低いほうを選択)
少数株主が取得する場合(配当還元方式)
年配当金額(50円換算)= 500千円 ÷(5,000千円 ÷ 50円 = 100,000株相当)= 5円
配当還元価額 =(5円 ÷ 10%)×(500円 ÷ 50円)= 50円 × 10 = 1株 500円
同族オーナーが取得すれば9,320円(中会社(大)の場合)、少数株主なら500円。同じ1株で約19倍の差が生じます。少数株主からの買い集めが事業承継対策として語られるのは、この差が理由です。
注意すべき「特定の評価会社」
次に該当する会社は、上記の一般的な評価方法を使えず、原則として純資産価額で評価します(財産評価基本通達189以下)。
| 類型 | 判定の概要 |
|---|---|
| 比準要素数1の会社 | 直前期末で配当・利益・簿価純資産の3要素のうち2つがゼロ、かつ直前々期末でも2つ以上がゼロ |
| 株式等保有特定会社 | 相続税評価ベースの総資産に占める株式等の割合が50%以上 |
| 土地保有特定会社 | 土地保有割合が、大会社区分で70%以上/中会社区分で90%以上 |
| 開業後3年未満の会社等 | 開業後3年未満、または3要素がすべてゼロ |
| 開業前・休業中の会社 | 該当事実がある場合 |
| 清算中の会社 | 分配見込額の複利現価で評価 |
持株会社化を進めた結果、意図せず株式等保有特定会社に該当してしまい、狙っていた評価引き下げ効果が出ない——というのは実務でよく見かける失敗です。また、課税時期の直前に合理的な理由なく資産構成を変えた場合は、その変動がなかったものとして判定されます。
さらに、通達どおりの評価が「著しく不適当」と認められる場合には、国税庁長官の指示により別途評価される総則6項の適用リスクもあります。借入で資産を購入して評価額を圧縮する類の対策は、この観点からの検討が欠かせません。
よくある質問
Q. 自社株の評価額は、決算のたびに変わりますか?
A. 変わります。類似業種比準価額は直前期の配当・利益・純資産を使うため、利益が大きく出た期の直後は評価額が上がります。純資産価額も、利益の蓄積と資産の含み益で年々増えていくのが通常です。承継のタイミングは、この評価額の動きを見ながら設計することになります。
Q. 会社規模を意図的に大きくすれば評価額を下げられますか?
A. 総資産や取引金額を増やして区分を上げれば、類似業種比準価額のウエイトが増えて評価額が下がる方向に働くのは事実です。ただし事業実態を伴わない資産の付け替えは否認の対象になり、株式等保有特定会社・土地保有特定会社に該当してしまえば逆効果です。効果とリスクの両面から個別に検討する必要があります。
Q. 役員退職金を支払うと評価額は下がりますか?
A. 退職金の支払いは純資産を減らし、損金算入により利益も減るため、類似業種比準価額・純資産価額の双方を引き下げる方向に働きます。ただし不相当に高額な部分は損金不算入となるため、金額の妥当性の検討が前提です。考え方は役員退職金の功績倍率とは?を参照してください。
Q. 税務上の評価額で、M&Aの買い手に売れますか?
A. 別物と考えてください。税務評価額は課税のための画一的な計算であり、M&Aの価格は買い手が見込む将来の収益力から決まります。「税務評価額は高いのに買い手が付かない」「税務評価額より高く売れた」のどちらも普通に起こります。 詳しくは2つの株価の違いをご覧ください。
まとめ
- 自社株の税務評価は、①誰が取得するか(同族株主か少数株主か)→ ②会社規模区分 → ③評価方式の順に決まる
- 同族オーナー側は原則的評価方式。大会社=類似業種比準/中会社=L割合による併用/小会社=純資産価額が基本形
- 会社規模は従業員70人以上で大会社確定。それ以外は総資産・従業員数基準と取引金額基準の上位の区分を採用
- 純資産価額では、含み益(評価差額)に対する**法人税額等相当額38%(令和8年改正後・改正前は37%)**を控除する
- 少数株主の配当還元方式は原則的評価と桁が変わるほど低くなることがあり、少数株の集約は承継設計の要点
- 株式等保有特定会社・土地保有特定会社などの特定の評価会社に該当すると前提が崩れる。持株会社化の設計時は特に要注意
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※ 取引相場のない株式の評価方法については、評価方式間で生じる価額のかい離への対応が有識者会議で検討されており、将来的な見直しの可能性があります。本記事の内容は執筆時点の通達に基づくものです。
※ 本記事は財産評価基本通達に基づく一般的な評価の考え方の解説であり、個別の税務相談に代わるものではありません。実際の評価額は、資産の内容、株主構成、課税時期、特定の評価会社の該当性などにより変わります。記事中の率・基準は執筆時点のものです。相続・贈与・事業承継の実行にあたっては税理士にご相談ください。