結論:非上場株式の売却は「自分で確定申告」が必須

上場株式を証券会社の特定口座(源泉徴収あり)で売った場合、税金は自動的に差し引かれ、確定申告は不要です。しかし、オーナー経営者が自分の会社の株式(非上場株式)を売却した場合は事情が違います。

  • 買い手が税金を源泉徴収する仕組みはありません
  • 申告不要制度もありません
  • 譲渡所得は他の所得と区分して税額を計算する申告分離課税です(租税特別措置法37条の10。国税庁タックスアンサーNo.1463)

したがって、売却した年の翌年2月16日から3月15日までの間に、自分で確定申告をして納税する必要があります。売却代金を受け取って安心していると、翌年3月に数千万円単位の納税が待っている、というのが会社売却の税務の実態です。

本記事では、申告する金額の計算から使う書類、納付の時期、翌年度に効いてくる住民税・社会保険料の影響まで、会社売却の年の確定申告に必要なことを一通り整理します。

申告する金額の計算:譲渡所得=譲渡価額−(取得費+譲渡費用)

項目内容
譲渡価額株式譲渡契約書に記載された売却代金
取得費株式を取得するために支払った金額(設立時の払込金、増資の払込金、他の株主からの購入代金など。国税庁タックスアンサーNo.1464)
譲渡費用売却のために直接かかった費用(M&A仲介手数料・FA報酬など)
譲渡所得譲渡価額 − 取得費 − 譲渡費用

数値例

項目金額
譲渡価額300,000千円
取得費(設立時の出資額)△10,000千円
譲渡費用(仲介手数料)△10,000千円
譲渡所得280,000千円
所得税(280,000 × 15%)42,000千円
復興特別所得税(280,000 × 0.315%)882千円
住民税(280,000 × 5%)14,000千円
税額合計(20.315%)56,882千円

この数値例は会社売却の手取り計算の記事と同じ設例です。手取り額の考え方はそちらを、ここでは「申告のしかた」に集中します。

取得費で押さえるべき3点

  1. 相続・贈与で取得した株式は、被相続人・贈与者の取得費を引き継ぎます(No.1464)。父が創業した会社の株を相続して売却した場合、取得費は「父が設立時に払い込んだ金額」です
  2. 取得費が分からない場合は、売却代金の5%相当額を取得費とすることが認められます(概算取得費。No.1464)。ただし実際の払込額より小さくなることが多く、税負担が増えるのが通常です。定款・払込証明書・株主名簿・過去の増資記録を探す価値は大きいです
  3. 増資や株式の買い増しを繰り返している場合は、同一銘柄ごとに取得費を集計します

使う申告書と手続きの流れ

一般的な確定申告書に、分離課税用の書類を追加します。

書類役割
確定申告書 第一表・第二表全体の所得・税額のとりまとめ
確定申告書 第三表(分離課税用)株式等の譲渡所得を他の所得と区分して記載
株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書譲渡価額・取得費・譲渡費用を記載して譲渡所得を計算。非上場株式は「一般株式等」の欄に記入

計算明細書で譲渡所得を計算し、その金額を第三表に転記する流れです。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」やe-Taxを使えば、画面の案内に沿って入力するだけで各書類が自動作成されます。

注意: 非上場株式の譲渡所得は「一般株式等に係る譲渡所得等」に分類され、上場株式の「上場株式等に係る譲渡所得等」とは別々に課税されます(No.1463)。同じ年に上場株式で損失が出ていても、非上場株式の譲渡益とは通算できません(No.1465)。

必要書類チェックリスト

申告時に手元に揃えておきたい資料です。

書類用途
株式譲渡契約書譲渡価額・譲渡日(引渡日)の確認
売却代金の入金記録(通帳・振込明細)収入金額の裏付け
取得費の証拠(設立時の定款・払込証明書、増資の払込記録、株主名簿、過去の株式売買契約書)取得費の立証。最も見つかりにくく、最も税額に影響する
仲介手数料・FA報酬の請求書・領収書譲渡費用の裏付け
相続で取得した場合:遺産分割協議書、被相続人側の取得費資料引き継いだ取得費の立証
役員退職金を受け取った場合:退職所得の源泉徴収票退職所得の確認(後述)
マイナンバーカード(または通知カード+本人確認書類)申告書の本人確認

取得費の資料は、会社の設立から数十年経っていると散逸していることが少なくありません。売却の交渉が始まった段階で探し始めるのが実務上のコツです。

納付のタイミング:所得税は3月、住民税は翌年6月以降

税額56,882千円は、一度にまとめて払うわけではありません。

税目金額(数値例)納付時期
所得税+復興特別所得税42,882千円確定申告期限(翌年3月15日)まで。振替納税なら4月中旬〜下旬に口座引落
住民税14,000千円確定申告の内容が市区町村に連携され、翌年6月以降に納付(普通徴収なら年4回、給与があれば特別徴収で給与天引き)

売却代金を受け取ってから最初の納税まで、半年から1年以上あくことがあります。手取り額を計算するときに税額分を別口座に確保しておくのが、資金管理の基本です。

なお、翌年の予定納税を心配する方がいますが、予定納税基準額の計算では譲渡所得などの分離課税の所得は除外されます(国税庁タックスアンサーNo.2040)。一度きりの株式売却で翌年の予定納税額が膨らむことは、原則ありません。

見落としがちな4つの影響

1. 国民健康保険料が翌年度に上がる

会社を売却して役員を退任し、国民健康保険に加入している場合、確定申告した株式の譲渡所得は保険料の所得割の算定基礎に含まれます(各市区町村の国民健康保険の取扱い。例:豊田市「株式等の譲渡所得等の国民健康保険への影響」)。売却翌年度の保険料は、多くの場合**賦課限度額(上限)**まで上がります。70歳以上の方は医療機関での窓口負担割合の判定にも影響しうるため、退任後の健康保険の選択(任意継続・国保・家族の扶養)は売却前に検討しておきたい論点です。

2. 配偶者控除・扶養控除の判定に影響する

譲渡所得は「合計所得金額」に含まれます。株式を配偶者や子が保有していて売却した場合、その年はその人を配偶者控除・扶養控除の対象にできなくなることがあります。

3. 売却損が出ても他の所得と通算できない

取得費が譲渡価額を上回り損失が出た場合、一般株式等の譲渡損失は給与所得など他の所得から差し引くことはできず、上場株式等の譲渡益との通算も、翌年以降への繰越控除もできません(一定の特定中小会社の株式に係る特例を除く。No.1465)。

4. 分割払い・アーンアウトがある場合の申告年

譲渡所得を申告する年は、原則として株式の引渡しがあった日の属する年です。納税者の選択で契約の効力発生日によることもできます(所得税基本通達36-12)。代金が翌年に分割で入金される契約でも、引渡しが済んでいれば全額をその年の収入として申告するのが原則で、「入金された分だけ申告する」ことはできません。業績条件で追加対価が変動するアーンアウト条項がある場合の課税時期は個別性が高いため、契約締結前に税理士に確認してください。

役員退職金を併用した場合の申告

売却と同時に役員を退任し、会社から役員退職金を受け取るケースでは、退職所得の扱いが加わります。

  • 会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、会社が退職所得控除・2分の1課税を反映して源泉徴収するため、退職金について原則、確定申告は不要です(国税庁タックスアンサーNo.1420)
  • 提出していない場合は、退職金の**20.42%**が源泉徴収されており、確定申告で精算(多くの場合は還付)します
勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
20年超800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年)

株式の譲渡所得と退職所得はそれぞれ別の分離課税なので、合算して税率が上がることはありません。退職金の適正額や過大退職金のリスクについては役員退職金の功績倍率の記事をご覧ください。

よくある質問

Q. 売却代金の入金が翌年になりました。申告はどの年ですか?

A. 原則は株式の引渡日が属する年です(所得税基本通達36-12)。入金が翌年でも、引渡しが年内なら年内の所得として申告します。なお、収入すべき時期は譲渡代金の決済を終えた日より後になることはないとされています(同通達注1)。

Q. 申告しないとどうなりますか?

A. 無申告加算税・延滞税の対象になります。買い手側の法人税申告書には株主の異動が反映され、会社の株主名簿も書き換わるため、株式の売却は税務署に把握されうる取引です。期限内申告が原則です。

Q. 住民税の申告は別に必要ですか?

A. 所得税の確定申告をすれば、その内容が市区町村に連携されるため、住民税の申告を別途行う必要はありません。

Q. 税理士に頼まなくても自分でできますか?

A. 取得費が明確で、譲渡費用も仲介手数料だけ、退職金の併用もない単純なケースなら、確定申告書等作成コーナーで自力申告も可能です。一方、相続で取得した株式、複数回の増資、取得費資料の欠落、分割払い・アーンアウト、退職金との組み合わせがある場合は、税額への影響が大きいため税理士への依頼を検討する価値があります。

まとめ:売却が決まったら「翌年3月」を逆算して準備する

  • 非上場株式の売却は源泉徴収なし・申告不要制度なし。翌年2月16日〜3月15日に申告分離課税で確定申告が必須
  • 譲渡所得=譲渡価額−(取得費+譲渡費用)。取得費の証拠探しが最も税額に影響する
  • 使う書類は第一表・第二表・第三表(分離課税用)+株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書(一般株式等の欄)
  • 所得税は翌年3月、住民税は翌年6月以降。予定納税は原則膨らまない
  • 翌年度の国民健康保険料・扶養判定・売却損の通算不可・分割払いの申告年に注意
  • 退職金は「受給に関する申告書」を出していれば原則申告不要。譲渡所得とは別枠

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※ 本記事は2026年9月3日に公開しています(筆者は2026年6月24日付で税理士登録)。

※ 本記事は一般的な制度の解説であり、個別の税務相談に代わるものではありません。実際の税額・手続きは、株式の取得の経緯、譲渡契約の内容、退職金の有無、他の所得の状況、お住まいの市区町村の取扱いなどにより変わります。記事中の税率・控除額・様式名は執筆時点のものです。申告にあたっては税理士にご相談ください。