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M&A相場

中小企業M&Aの売却相場は?業種別EBITDA倍率で試算する

中小企業のM&A売却相場を業種別EBITDA倍率で解説。「のれん=利益×年数」ではなく、実務で使われる算定手法で自分の会社の相場感を掴む方法。

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加藤 陽生

公認会計士

IPO準備企業の管理部長、M&Aアドバイザリー業務に従事。 中立的な立場で経営者のM&A判断をサポート。

公認会計士による監修済み(最終更新: 2026-03-21

中小企業のM&A、売却価格の「相場」はあるのか

「自分の会社を売ったらいくらになるのか」——M&Aを検討する経営者が最初に知りたいことです。

ネットで調べると「のれん=営業利益の3〜5年分」「年商の1〜2倍」といった情報が出てきます。しかし、これらは非常に粗い目安であり、M&Aの実務で使われる手法とは異なります。

「のれん=利益の3〜5年分」の問題点

この計算方法(年買法)は、税務上の営業権計算に由来するもので、以下の問題があります:

  1. 業種の違いを反映しない(IT企業と飲食店で同じ倍率は不合理)
  2. 成長性を考慮しない(毎年10%成長する企業と横ばいの企業が同じ評価)
  3. 規模の影響を無視する(売上1億円と50億円で同じ計算式)
  4. 資本構成を反映しない(借入が多い会社も少ない会社も同じ)

M&Aの実務で使われる手法:EBITDA倍率法

中小企業のM&Aで最も広く使われているのがEBITDA倍率法です。

企業価値(EV) = EBITDA × 業種別倍率

EBITDAは「営業利益+減価償却費」で、事業が生み出すキャッシュフローの近似値です。これに業種ごとの標準的な倍率を掛けて企業価値を算出します。

業種別の売却相場(EBITDA倍率)

以下は、中小企業M&Aで一般的に参照される倍率レンジです。

業種低め中央値高め補足
製造業5.0x7.0x9.0xニッチトップは高倍率
小売・飲食4.0x6.0x8.0x立地・ブランド力で差
IT・受託開発5.0x7.0x10.0xエンジニア定着率が評価軸
SaaS8.0x12.0x18.0xARR成長率で大きく変動
建設・不動産4.0x6.0x8.0x許認可・技術者の有無
医療・介護6.0x8.0x12.0x人材確保力がプレミアム
物流・運輸4.0x6.0x8.0x2024年問題で再編加速
卸売業3.0x5.0x7.0x取引先との関係性が鍵
サービス業4.0x6.0x9.0x属人性の低さがプレミアム

※ 中小企業M&A市場の実績値・公開情報を参考にした目安です。実際の倍率は案件・交渉環境によって異なります。

倍率に影響する要因

同じ業種でも倍率が変わる主な要因は以下の通りです。

高い倍率がつくケース:

  • 売上が安定的に成長している
  • 特定の経営者に依存しない組織体制
  • ニッチ市場でのシェアが高い
  • ストック型ビジネス(サブスクリプション等)
  • 財務データが整備されている

低い倍率になるケース:

  • 特定の顧客への依存度が高い(売上の30%以上が1社)
  • オーナー社長に依存した経営
  • 業界全体が縮小トレンド
  • 財務データが不十分
  • 訴訟・労務リスクがある

正規化EBITDAの重要性

倍率を掛ける「EBITDA」は、そのままのPL数値ではなく**正規化(ノーマライズ)**したものを使うのがM&Aの慣行です。

よくある正規化調整項目:

  • オーナーの役員報酬を市場水準に調整(過大 or 過少な場合)
  • 一時的な費用の除外(訴訟費用、リストラ費用等)
  • 一時的な収入の除外(補助金、保険金等)
  • 関連当事者取引の適正化(オーナー企業への割高発注等)

正規化により、EBITDAが数百万〜数千万円変わることは珍しくありません。これが「相場」に幅がある大きな理由の一つです。

まずは自分の会社の「相場感」を掴む

M&Aの売却相場は、業種と収益力で概ね決まります。

まずは直近3期分のPLデータ(売上高・営業利益・減価償却費)を準備して、ValSimで企業価値のレンジを確認してみてください。業種別の倍率が自動適用され、低・中央値・高の3パターンで企業価値が表示されます。

概算を把握した上で、正規化調整やNet Debt分析が必要かどうかを専門家に相談するのが、最も効率的なM&A検討の進め方です。

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