「会社の値段」はどうやって決まるのか
会社の売却を考えたとき、最初に知りたいのは「自分の会社はいくらなのか」でしょう。
結論から言うと、中小企業のM&AではEBITDA倍率法がよく用いられます(このほか、純資産に営業利益の数年分を加算する「年買法(年倍法)」なども実務で広く使われます)。本記事ではEBITDA倍率法を取り上げます。計算式はシンプルです:
企業価値 = EBITDA × 業種別倍率
EBITDAとは
EBITDAは「利払い・税引き・償却前利益」の略で、以下の計算式で求めます:
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
これは利払い・税金・減価償却の影響を除いた「利益指標」で、減価償却費を営業利益に足し戻して求めます。会社ごとに異なる資本構成(借入の多寡)や償却方法の影響を除いて収益力を比較できるのが利点です。ただし設備投資(CAPEX)は控除しないため、設備集約型のビジネスでは実際のキャッシュフローとの差が大きくなる点に注意が必要です。
業種別EBITDA倍率の目安
| 業種 | 倍率(低) | 倍率(中央値) | 倍率(高) |
|---|---|---|---|
| 製造業 | 5.0x | 7.0x | 9.0x |
| 小売・飲食 | 4.0x | 6.0x | 8.0x |
| IT・受託開発 | 5.0x | 7.0x | 10.0x |
| SaaS | 8.0x | 12.0x | 18.0x |
| 建設・不動産 | 4.0x | 6.0x | 8.0x |
| 医療・介護 | 5.0x | 7.0x | 10.0x |
| サービス業 | 5.0x | 7.0x | 10.0x |
※ 上場企業の取引水準等を参考にした目安(中小M&Aの実取引はこれより低くなる傾向)。2026年7月時点。実際の倍率は案件・交渉環境によって異なります。
倍率に幅があるのは、同じ業種でも成長性・収益性・市場環境によって評価が異なるためです。
具体的な計算例
A社(製造業)のケース:
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上高 | 6億円 |
| 営業利益 | 5,000万円 |
| 減価償却費 | 2,500万円 |
| EBITDA | 7,500万円 |
製造業の中央値倍率(7.0x)を適用すると:
企業価値(EV) = 7,500万円 × 7.0 = 5億2,500万円
企業価値から「株主の取り分」を求める
企業価値(EV)は会社全体の価値であり、株主が受け取る金額(株主価値/Equity Value)とは異なります。なお、ここでのEVはEBITDA倍率法で算出した事業価値ベース(手元現預金を含まない、事業そのものの価値)を指します。だからこそ、次の式で余剰現預金を足し戻します。
株主価値 = 企業価値 − 有利子負債 + 余剰現預金
A社の場合:
- 有利子負債:1億円
- 余剰現預金:3,000万円(=事業の運転に必要な運転資金を超える手元資金。どこまでを「余剰」とみなすかは個別判断が必要です)
株主価値 = 5億2,500万円 − 1億円 + 3,000万円 = 4億5,500万円
これが「会社を売ったときに株主が受け取る金額の目安」です。
よくある誤解
「年商の何倍」は正確ではない
「年商の1〜2倍」という目安を聞くことがありますが、これは非常に粗い近似です。利益率が5%の会社と20%の会社では、同じ年商でも価値が大きく異なります。
「純資産=会社の値段」ではない
帳簿上の純資産(簿価純資産)は過去の投資の結果であり、将来の収益力を反映していません。M&Aでは将来の収益力をベースに評価するのが一般的です。
最終的な売却価格はEVと異なることがある
算定した企業価値は「交渉のスタート地点」です。実際の売却価格は、買い手との交渉、シナジーの有無、売り手の急ぎ度合い等によって上下します。
まずは自分で計算してみる
EBITDA倍率法は、3期分のPLデータ(さらに株主価値まで求めるなら有利子負債・現預金の額)があれば、高い費用を払って専門家に依頼する前に、自分で概算を把握できます。
ValSimでは、業種を選んで数値を入力するだけで、企業価値のレンジ表示と株主価値へのブリッジ計算が3分で完了します。
※ 本記事は2026年7月6日に内容を確認・更新しています(筆者は2026年6月24日付で税理士登録)。
※ 本記事およびValSimの各ツールは、概算・教育目的の簡易モデル(固定実効税率30%・業種別の目安倍率等)に基づくものであり、実際のM&A取引価格や正式な株式価値算定の結果とは異なります。記事中の倍率・相場・料率は更新時点の目安であり、個別案件では前提により大きく異なります。実際の意思決定にあたっては、公認会計士・税理士等の専門家にご相談ください。