EBITDA倍率の業種別目安一覧【2026年版・CPA監修】
EBITDA倍率(EV/EBITDA)の業種別目安を一覧表で掲載。中小企業M&Aで適用する際の注意点と、倍率が上下する要因を公認会計士が解説。
加藤 陽生
公認会計士IPO準備企業の管理部長、M&Aアドバイザリー業務に従事。 中立的な立場で経営者のM&A判断をサポート。
EBITDA倍率とは
EBITDA倍率(EV/EBITDAマルチプル)は、企業価値(EV)をEBITDAで割った指標です。M&Aの価格交渉で最も広く使われる「ものさし」であり、「この会社はEBITDAの何倍で取引されているか」を示します。
計算式:
EV/EBITDA倍率 = 企業価値(EV) ÷ EBITDA
逆に言えば、企業価値 = EBITDA × 倍率 で算定できます。
なぜEBITDA倍率が使われるのか
M&Aの実務でEBITDA倍率が好まれる理由は3つあります。
1. 資本構成の影響を排除できる
PER(株価収益率)は借入の多寡で変動しますが、EBITDAは利払い前の利益なので、資本構成が異なる企業同士を比較できます。
2. 会計方針の影響を受けにくい
減価償却方法(定額法・定率法)の違いを排除できるため、設備投資の大きい業種でも公平に比較可能です。
3. キャッシュフローの代理指標になる
EBITDAは営業キャッシュフローの近似値であり、「この会社が年間いくらのキャッシュを生むか」を直感的に把握できます。
業種別EBITDA倍率の目安
以下は、中小企業M&A(売上1億〜50億円規模)で一般的に参照される倍率レンジです。
| 業種 | 低め | 中央値 | 高め | 特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| 製造業(一般) | 5.0x | 7.0x | 9.0x | 独自技術・特許保有で上振れ |
| 食品製造 | 5.0x | 7.5x | 10.0x | ブランド力と販路が鍵 |
| 小売・飲食 | 4.0x | 6.0x | 8.0x | 多店舗展開力・立地資産 |
| SaaS | 8.0x | 12.0x | 18.0x | ARR成長率30%超で上振れ |
| IT・受託開発 | 5.0x | 7.0x | 10.0x | エンジニアの定着率が重要 |
| 建設 | 4.0x | 6.0x | 8.0x | 許認可・技術者在籍がプレミアム |
| 不動産 | 4.0x | 6.5x | 9.0x | 管理戸数・仲介ネットワーク |
| 医療・介護 | 6.0x | 8.0x | 12.0x | 人材確保力・施設の稼働率 |
| 物流・運輸 | 4.0x | 6.0x | 8.0x | ドライバー確保・倉庫資産 |
| 卸売業 | 3.0x | 5.0x | 7.0x | 仕入先・販売先の関係性 |
| 人材サービス | 5.0x | 7.0x | 10.0x | 登録スタッフ数・リピート率 |
| EC・プラットフォーム | 6.0x | 10.0x | 15.0x | GMV成長率・テイクレート |
| サービス業(その他) | 4.0x | 6.0x | 9.0x | ストック収益の有無で差 |
※ 中小企業M&A市場の実績値・公開情報を参考にした目安です。実際の倍率は案件の個別事情・交渉環境によって異なります。
上場企業と中小企業の倍率の違い
上場企業のEV/EBITDA倍率は、金融データベース(SPEEDA、Bloomberg等)で取得できます。しかし、中小企業のM&Aでは上場企業の倍率をそのまま適用すべきではありません。
中小企業で倍率が割り引かれる理由:
- 流動性ディスカウント:非上場株式はいつでも売れるわけではない
- サイズプレミアム:小規模企業はリスクが高い
- オーナー依存リスク:経営者が変わると業績が不安定化しやすい
- 情報の非対称性:財務情報の信頼性が上場企業より低い
一般的に、上場企業の倍率から20〜40%程度のディスカウントを適用するのが実務的な目安です。
倍率を上げる(=会社の評価を高める)ためにできること
M&Aの前に以下の点を改善することで、適用倍率が上がる可能性があります。
- 経営の属人性を下げる — マニュアル化・権限委譲を進める
- 顧客集中度を分散する — 特定顧客への依存度を30%以下に
- ストック収益を増やす — サブスクリプション・保守契約の比率を上げる
- 財務データを整備する — 月次決算の精度を上げ、管理会計を導入する
- 成長の余地を示す — 未開拓市場・新規事業の可能性を具体的に説明できるようにする
これらは「バリューアップ」と呼ばれ、M&Aアドバイザーが売却前に支援する領域です。
まとめ
- EBITDA倍率は業種によって4倍〜18倍と大きな差がある
- 中小企業では上場企業より20〜40%低い倍率が適用される傾向
- 倍率はオーナー依存度・顧客集中度・成長性で上下する
- まずは自社の業種に当てはまる倍率でValSimを使って概算を出し、その上で専門家に相談するのが効率的